進化の大ジャンプー1 カメラ眼の獲得
5億年ほど前、目をもつ動物が生まれた。
これより遥か以前に枝別れしていた植物は、何億年もかけて
光合成を効率的に行うために、光の明暗が分かる目(センサーの働きをする黒い小さな部分)を進化させていた。
原始の海を泳ぎまわる動物の先祖は、漂う植物プランクトンを食するなかで
自分の遺伝子の中に、植物の目の遺伝子を組み込んだらしい。
DNAの配合を解析すると、両者は似たものらしい。
これは、現在でも行われている。
アメリカ東海岸の塩沼に生息するウミウシは、「植虫類」と呼ばれる、植物と動物、両方の性質を併せ持つ生物の一種である。
卵からかえった幼生は、藻類の緑の糸状体を探し求め、それに付着し、小さなウミウシへの変態を完了させる。
変態が終わると、藻類を食べ始める。
細胞膜を破り、「葉緑体」と呼ばれる楕円の細胞小器官の詰まった細胞の中身を吸い出す。
「葉緑体」は、日光から大量のエネルギーを取り出すための基礎である。
「葉緑体」で満腹になったウミウシは口を失い、その後は生涯、太陽エネルギーだけで生きていく。
「葉緑体」も自らを維持していくためのタンパク質を必要とする。
タンパク質の供給を続けるには、そのための遺伝情報が必要になる。
その遺伝情報を持っているのは、藻類の細胞核であるが、ウミウシが食べた時点で細胞核から切り離されている。
現在では、重要な遺伝子が藻類の細胞核からウミウシの細胞核に受け渡されることが分かっている。
これには、ウミウシの細胞核に寄生するウィルスが関係しているらしい。
「逆転写酵素」と呼ばれる特殊な化学物質を持っているウィルス、通常「レトロウィルス」と呼ばれる、が
植物界、動物界というまったく異なる界に属する生物を結合できるのかが、まだ正確にはわかっていない。
これには、まだ続きがあり、
再び春が来て、ウミウシの命が終わる頃のことだ。
卵を産みつけ終わると、
その直後にウミウシたちは病気になり死んでいく。
それまでおとなしかったウィルスたちが急速に増え、あらゆる組織、器官に充満し、
にわかに性質を変え、ウミウシの身体を攻撃するようになる。
出典『破壊する創造者 ウィルスがヒトを進化させた』
5億年ほど前、脊椎動物の先祖である、ピカリアという3cmほどの白い糸状の生物は
複眼を持つ大きな節足動物の先祖と原始の海で生きていた。
節足動物に上から襲われれば、影により慌てて砂の中に逃れることができるが、
明暗しか判別できない目しかないため、後ろからや下から襲われてはひとたまりもなかった。
ところが、3億5000年ほど前、脊椎動物の先祖は、ダンケルオマテクスという10mに及ぶ魚のような生物になっていた。
このダンケルオマテクスの目は、現在の我々の目と同じ、カメラ眼と言われるものである。一方節足動物の先祖である海サソリは複眼のままである。
複眼は視界がぼんやりとしたものだが、カメラ眼は網膜が方眼紙のようになっていて、それに当たる位置が座標の役割をして、
方向や位置を正確に把握できるようになっている。
DNAを比較してみると、カメラ眼のほうが同じDNA配列が4倍あることがわかった。
どうやら、ある時期、ピカリアにオスとメスも両方の遺伝子をそのまま受け取った子供ができたらしい。
そして、親の2倍の遺伝子をもった子供同士により、4倍の遺伝子を持った子供ができたらしい。
先祖の4倍の遺伝子を持ったピカリアが、脊椎動物の先祖として生き残っていた。
カメラ眼で使われている遺伝子は、1800種類以上あり、
それらは、遺伝子が4倍になったことで生まれた。
出典「NHKオンデマンド特選『生命大躍進1』」
ダーウィンの提示した「自然選択説」
-生存上有利な点を持つ個体は、他の個体に較べて長生きし子孫を増やす確率が高くなるー
という概念は、
論理的であり、実験や観察の結果とも合致する。
ただ、ダーウィン自身も認識していたとおり、一つの弱点がある。
選択が起きるためには、まず何か、子孫に遺伝し得るような変化が必要である。
ある個体、あるいは個体の集団が他よりも生存上、有利になり、相対的な適応度を高めるには、
まず、何らかの原因で子孫に遺伝するような変化が起きなくてはならない。
その変化がなぜ、どのように起きるのかが、ダーウィンにはわからなかったのだ。
出典『破壊する創造者 ウィルスがヒトを進化させた』