進化の大ジャンプー4.2-2 脳の部位、ミラー系とメンタライジング系の連携

パソコンのキーボードを打つという行為は
「10本の指を上下させる」から、「文字を打ち込む」「本を執筆する」「自分の知見をたくさんの人に伝える」までの
いろいろなレベルで言い表せられるだろう。
「10本の指を上下させる」という表現は、なんら特別な意味をもたない。
一方、「文字を打つ」という表現以降は、その行為の裏には、意味や動機が隠れている。

相手が「何を」しているかを理解するミラー系の動きは、
メンタライジング系が「なぜ」を理解するための第一歩なのである。
ミラー系の働きは本質的に、メンタライジング系が論理的に働いて「なぜ」の問いに答えるための前提を提供することだ。

  「朝から酒を飲んでいる」という行為を見て、ミラー系が反応する。
  「なぜ」とメンタライジング系が働き始める。
    相手がが答える:リストラされ、失業している。
    「なげやりの口調」「だらしない服装」をいう感覚が生じ、
    それを元に「やけになって酒を飲んでいるんだ。さもありなん」
  とメンタライジング系が判断する。

このミラー系のおかげでおかげで、私たちは、”運動”ではなく、”行為”の世界に生きている。
つまり、
私たちは、意味の世界に生きているのだ。

ミラー系があるからこそ、
私たちは世界を社会的なものとして体験し、
他者の行為に心理的な意味を読み取れる。
運動の世界を行為という心理的な要素にまとめ直し、
メンタライジング系が作業しやすいようにお膳立てをする-
それこそがミラー系の重要な働きなのだ。

ミラー系を持つ霊長類のなかでも、
高度なメンタライジング系を持つのは私たち人間だけである。
霊長類は「何を」の世界に生きているが、
私たちは「なぜ」の世界に生きている。

自閉症の原因は、「彼らが周囲の世界に鈍感なせいではなく、
外界の刺激に過敏なあまり、社会との接触を子ども時代に充分に体験できなかったせいである」
このような考えを、「強烈世界仮説」と呼ぶ。

外界からに刺激が強烈すぎるために、
彼らは周囲から背を向け、
ひとり静かに過ごせる世界を好む。

そしてそのせいで
メンタライジング系の発達を促す重要な機会を逃してしまうのだ。

私たちは普段、人の顔を見るときには、
たいてい相手の目と口、とりわけ相手の目を見る。
目と口は多くを語り、
その人の心の状態についてたくさんの情報を伝えるからだ。

ところが、自閉症の人は、
情報量が少ない顔の縁に視線をはわせる。
彼らが相手の目を見る時間は、
自閉症でない人の半分ほどしかない。

自閉症にはいろいろな原因が絡み合い、複雑な症状が現れる。
しかしながら、「強烈世界仮説」は、
彼らが抱える問題をうまく説明する有力な考えのように思える。

社会に無関心のように思える態度や行動と、
彼らが実際に内面で体験している世界とは
大きく異なっているらしい。

自閉症の人が周囲の世界を避けるのは、
強烈で予測のつかない人間に対処し、
文字通り圧倒されないための手段だと考えられる。
そして、
脳の発達にとって最も大切な時期に、
自閉症の子どもは、
社会とのやりとりをするかけがえのない体験を逃し、
相手の心の状態を読み取るメンタライジング能力を
鍛える重要な機会を失ってしまっているのではないか。

                  出典『21世紀の脳科学 人生を豊かにする3つの「脳力」』

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