累積的文化進化

3~4歳児の少人数グループと、同じ個体数のチンパンジー及びオマキザルのグループが、パズルボックスに挑戦した。この箱は、開け方そのものがパズルで、いろいろな方向にスライドさせたり、押したり、ひねったりしないと開かない。3段階で徐々に難度が増すようにできており、累積的な文化学習の機会を提供することを目的にしている。(中略)
この課題に挑戦したサルとヒトでは、ヒトの圧倒的勝利に終わった。幼児の43%が最終段階(第3段階)までクリアしたのに対し、チンパンジーで最終段階に到達したのは1匹のみ、オマキザルでは1匹もいなかった。
うまく箱を開けられた子供たちに頻繁に見られたのは次のような行動だった。
  ①他の子供の操作をまねる(模倣)
  ②他の子供に教わる(口頭教示)
  ③他の子供にご褒美を分ける(分かち合い)
つまり、ヒトグループに見られる模倣、教示、社会性が成功のカギを握っていたのだ。一方、サルグループが苦戦したのは、まさにこうした社会的、文化的能力に欠けていたからだった。チンパンジーやオマキザルでは、教示的行為や分かち合いがゼロだったのに対し、幼児では分かち合いが215回、教示行為が23回見られた。模倣についてみると、チンパンジーは、第一段階の操作はある程度まねたが、第2および第3段階の操作をまねることは一度もなかった。この実験結果は、野生のチンパンジーやオマキザルの観察結果ともよく一致する。こうして霊長類においては、累積的文化進化に必要な、教示その他の行為が確認された例はない。
      ジョセフ・ヘンリック著今西康子訳『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と<文化ー遺伝子革命>』P.333

この 数 十 年間 における 経済 史学 の 発達 の おかげ で、 人類 の 発展 を 定量 的 に 把握 する こと が 徐々に 可能 に なっ て き た。 データ から、 驚く べき 物語 が 浮かび上がっ て くる よう に なっ た の だ。 一八 二 〇 年頃 までは、 全 人類 平均 の 一人 当たり 経済成長率( 人類 の 物質 面 での 発展 を 測定 する 最良 の 尺度) は ほとんど ゼロ だっ た。 それどころか、 ローマ帝国 崩壊 後 の 数 世紀 間、 ヨーロッパ 経済 は 縮小 し て いっ た。 これ は 重要 な 技術 が 失わ れ て いっ た からで ある。 たとえば 非常 に 重要 な セメント の 製法 に いたっ ては、 一 三 〇 〇 年 も 後 に 再発見 さ れ た。   前 近代 の 世界 において 最も 悲惨 だっ た のは、 大量 の 知識 が 失わ れ、 何 千年 も そのまま に なっ て しまっ た という こと だ。 グーテンベルク と フランシス・ベーコン 以前 の 世界 には、 今日 では 当然 視 さ れ て いる 二つ の もの、 すなわち 情報 の 確実 な 蓄積 方法 と、 科学的 理論 の 確固たる 基礎 が 欠け て い た ので ある。   科学的 方法論 が 欠如 し て い た という こと は、 技術 進歩 は 試行錯誤 の 産物 に すぎ ず、 稀 にしか 起こら なかっ た という こと だ。 発明 家 や 企業家 は 自分 たち の 仕事 を 数カ所 に 記録 し た だけ だっ た。 何 も 記録 し ない 者 も 少なく なかっ た。 結果、 発明 は しばしば 失わ れ、 人々 の 技術 や 生産力 の 水準 は 進歩 と 後退 を 繰り返し て い た ので ある。
    ウィリアム・バーンスタイン著徳川家広訳 『「豊かさ」の誕生(上) 成長と発展の文化史』

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