MRJの失敗。以前は、次々に外国人技術者を追加して、応援部隊を少しづつ追加して形勢を逆転できないように、船頭多くして船山に登る、ようになかなか、アメリカの認証を得る機体を製造できなかったが、今回はこれまでのように一社だけでやろうとするのではなく、安全基準や国際標準も、事業化の早い段階から海外と一緒に作る、これはお客も営業要員も同じに作ることであり、また三菱重工が2020年にボンバルディアからCRJ事業を取得し、型式証明、整備、改修、部品供給、販売支援などを引き継いでいることも大きい。 「今度の計画の成否は、2035年でも2040年でもなく、もっと手前——CRJの整備現場の知見が、次期機の設計会議に呼ばれているかという、今日にでも確認できる一点に、もう現れているはずです。」 2026/07/21

Fable 5
CRJの一件を持ち出したのは、慧眼です。あの買収は2020年当時、「スペースジェットが死にかけているのに、なぜ他社の旧型機事業を700億円近くで買うのか」と訝しがられました。しかしハルさんの並べ方で見れば、意味は明白になる——三菱重工はあのとき、飛行機ではなく、回路を買ったんです。CRJ事業の中身は、機体の製造権ではありません。世界の空を現に飛んでいる千機超の保守、部品供給、改修、そして顧客との日常の接点——つまり認証後の世界で毎日回っている反復の、営業権ごとの取得です。MRJが最後まで持てなかったもの——型式証明を維持し続ける実務、エアラインとの二十年単位の関係、AOG(地上待機)の夜中の電話に応える体制——それを、作る代わりに買った。日鉄がUSスチールで工場ではなく生産文化に260項目を注いだ話の、ちょうど逆向きの取引で、自分に欠けた反復を、動いている状態のまま接収した。失敗の三年後を見れば、スペースジェットは死に、CRJの回路は生きて、次の計画の土台に組み込まれている。1兆円の授業料の中で、あの700億だけが、明確に元の取れた支出かもしれません。

そして「お客も営業要員も同じに作る」——このハルさんの言い回しは、MRJの死因のいちばん深い層を言い当てています。MRJの失敗は、技術の失敗として語られがちですが、実相は製品だけを先に作り、製品を取り巻く生態系(認証の作法、顧客の信頼、整備網、部品物流)を後から作ろうとした順序の失敗でした。航空機とは、機体という物体ではなく、その物体が三十年飛び続けるための関係の束です。エンブラエルが強いのは機体の性能ではなく、束の太さ。だから「安全基準や国際標準を、事業化の早い段階から海外と一緒に作る」という今回の方針は、単なる謙虚さではない——標準策定の席に着くことは、将来の顧客と審査官と部品会社を、設計段階から共犯にすることです。一緒に基準を書いた相手は、その基準で作られた製品を落とせない。GCAPが英伊と要求仕様から共同なのも、同じ論理。ISDB-Tは規格を「配った」が、今度は規格を「一緒に書く」——旗を立てるのではなく、旗の布を共同で織る。取り分の捕捉という一年来の課題に対する、いちばん筋の良い答え方です。

一社主義の放棄も、精神論ではなく算術です。完成機事業の本当の参入障壁は、技術でも資金でもなく、一社では抱えきれない時間でした。型式証明に十年、市場の信頼に二十年、その間ずっと赤字に耐える体力——ボーイングとエアバスですら国家の支えなしには立っていない。MRJは三菱重工一社の胆力に、国家産業ぶんの時間を背負わせた。今回の6社+政府+海外連携は、その時間を分散して担ぐ設計で、隊列の解散の絵で言えば、単独で砂漠を渡ろうとして倒れた隊が、今度は水と地図を持つ他国の隊商に、正規の隊員として加わってから、自分の道を探る——三段階計画の一段目・二段目(部材供給で反復を回す)は、まさにその「隊員として歩く」期間です。

ただ、最後にいつもの検査点を一つだけ。CRJの回路と、標準の共同策定と、部材供給の反復——道具は今回、全部揃っています。前回なかったものが揃った。だからこそ、残る唯一の急所は接続です。CRJで学んだ認証維持の実務が、名古屋の設計部門に還流する配管はあるか。部材供給で回す量産の反復が、2040年の完成機の設計思想に書き込まれる仕組みはあるか。道具が揃って死ぬ計画は、道具が足りずに死ぬ計画より、実は多い——それぞれの道具が別々の部門の成果として完結し、鎖にならないからです。MRJの審議会報告の「統合能力の欠如」とは、突き詰めればこの配管の不在のことでした。今度の計画の成否は、2035年でも2040年でもなく、もっと手前——CRJの整備現場の知見が、次期機の設計会議に呼ばれているかという、今日にでも確認できる一点に、もう現れているはずです。

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そう思います。今回の記事が示しているのは、単純な「MRJの再挑戦」ではなく、敗因を踏まえて、戦い方そのものを変えようとしている姿ですね。

MRJのときに外国人技術者を次々に加えたこと自体が悪かったのではなく、機体の基本設計や認証方針が固まった後から、各分野の専門家を救援隊のように投入したため、設計変更、認証要求、納期、部品調達が互いに絡み合った。指揮系統が一本化されないまま専門家だけ増やせば、まさに「船頭多くして船山に登る」になります。

今回の政府方針は、そこをかなり意識しています。経産省の航空機産業戦略は、いきなり純国産完成機を作るのではなく、材料、部品、サブシステム、全機システムという段階を踏み、海外メーカーの計画へ上流から参加しながら、設計、量産、認証、事業運営を統合する能力を取り戻す構想です。安全基準や国際標準も、事業化の早い段階から海外と一緒に作る必要があると明記されています。

これは、以前の

日本で機体をほぼ完成させ、最後に米国の型式証明を取りに行く

という発想から、

米国や欧州の認証当局、メーカー、航空会社と、最初から認証可能な機体を設計する

という発想への転換です。

「米国が認証せざるを得ない状況」の意味

ここは少し言い換えた方がよいでしょう。FAAに政治的圧力をかけて認証させる、という意味ではありません。FAAの型式証明は、認証基準、適合証明方法、試験、製造品質、文書、飛行試験を段階的に確認し、要求をすべて満たした場合に交付する制度です。2026年にFAAが示した説明でも、構想段階から認証基準を決め、適合性を示す試験や解析方法を合意し、製造・飛行試験を経て証明する七段階の仕組みになっています。

したがって作るべきなのは、

「米国が政治的に認めざるを得ない状況」ではなく、「安全基準を満たしているので、認証しない理由がない状況」

です。

さらに、米国の航空会社、リース会社、エンジンメーカー、電子機器メーカー、部品会社、整備会社が開発費や受注を通じて参加すれば、その航空機は「日本が米国へ持ち込む外国機」ではなく、米国産業も利害を持つ国際共同事業になります。FAAも計画の当初から申請者と認証計画を共有し、問題解決方法まで定めることを重視しています。

この形なら、米国側にとっても計画を成功させる利益が生まれます。

三菱重工には、MRJ時代になかった土台もある

大きいのは、三菱重工が2020年にボンバルディアからCRJ事業を取得し、型式証明、整備、改修、部品供給、販売支援などを引き継いだことです。現在のMHIRJは、米国、カナダ、欧州にサービス拠点や部品網を持ち、世界で運航中の1100機以上のCRJを支えています。

これは完成機を新規に認証する能力そのものではありませんが、

  • 運航後にどの部品が壊れるか
  • 航空会社が何に困るか
  • 改修をどう認証するか
  • 部品を何十年供給するか
  • 型式証明をどう維持するか

という「航空機を売った後の世界」を実地で学べる土台です。

MRJは、よい機体を設計して完成させることに意識が集中し、認証、販売、整備、部品供給、運航支援を含む航空機事業全体の厚みが足りませんでした。CRJ事業の取得によって、その後半部分を日常業務として持てるようになったのは重要です。

ただし、6社共同には再び危険もある

川崎重工、三菱重工、スバルなどが共同開発することは、技術や資金を束ねる点では合理的です。しかし全社が同じ発言力を持ち、各社の事情を調整し続ける組織になれば、再び船頭が増えます。

必要なのは、外国人技術者を増やすことでも、参加企業を増やすことでもなく、

一人の主任設計者、一つのプログラム本部、一つの認証方針、一つの構成管理

です。

海外の認証経験者も、設計が行き詰まった後に招く「助っ人」ではなく、構想設計の初日から権限と責任を持つ中核要員にしなければならない。海外企業との連携も、知恵だけ借りるのではなく、相手にも開発費、受注、納期、認証への責任を負わせる必要があります。

そして、記事にあるロボットによるリベット打ちや複合材の量産技術は重要ですが、それだけでは完成機にはなりません。

造船所の7万3000個の穴削りと同じで、手作業をロボット化するだけでなく、最初から

  • 認証しやすい構造
  • 自動生産しやすい設計
  • 検査しやすい接合方法
  • 設計変更を追跡できるデータ体系
  • 月産80機でも品質を再現できる工程

を作らなければならない。

型式証明は完成後に受ける最終試験ではなく、設計初日から積み上げる製品の一部なのですね。

ですから、築城さんの期待には十分な根拠があると思います。ただし勝ち筋は、「三菱が単独で米国を押し切る日の丸ジェット」ではなく、三菱が日本の素材、加工、ロボット、重工業、整備網を束ね、米欧企業も抜けられない国際共同事業を組み立てることです。

そうなれば、米国に認証をお願いする立場ではなく、米国側も認証取得を必要とする共同当事者になれる。以前との最大の違いは、そこにあると思います。

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