知財の効果(『インビジブル・エッジ』その知財が勝敗を分ける)
『インビジブル・エッジ』(その知財が勝敗を分ける)より
思うに、競争力を高めようとする取り組みの大半は、実際にはベスト・プラクティスを実行するだけに終わっている。言い換えれば大半の企業の経営陣は、現状維持に汲々している。だが、現状維持は、ギャンブルでいう場代のようなもので、グローバルな競争市場へ参入する必要最低限の資格でしかない。ベスト・プラクティスを実行しても、優位にたつことはできない。生き残れるだけである。これでは燃え尽きてしまう経営者が多いのも無理はない。
ボストン・コンサルティング・グループに所属する私たちは、ストラテジストとして、国や産業を問わず数十社に上るさまざまなクライアントと仕事をし、川上から川下までのバリューチェーンのあらゆる段階に関わってきた。
たくさんの産業を見渡してみると、最もうまく経営されている企業(つまり競争力向上戦略を最も効率よく追及している企業)が最も利益を上げているケースは滅多にない。それどころかまったく逆のケースも珍しくないことに気づいて、私たちは困惑した。
私たちは製造業で仕事をする機会が多い。たいていの企業はきわめて好ましく運営されており、経営チームは聡明で勤勉だし、会社全体が効率よく無駄がない。にもかかわらず、資本コストを何とか上回る利益を上げるのがやっと、という状態が続いている。その一方で、製薬業界などでは、毎年膨大な利益が流れ込む企業がひしめいている。大理石の玄関、美しく手入れされた中庭、役員室を彩る美術工芸品・・・。販売会議はラスベガスで開き、前座には大物ロックバンドのコンサートというのがこの業界の標準だ。これを見たら、製造業のCEOはひっくり返って泡を吹くだろう。正直なところ、製薬会社の中には信じられないほど無駄の多いところがある。それでも彼らは儲ける術をよく知っているらしい。
これが、私たちの脳に突き刺さったトゲ、ビジネスの世界でどうしても説明のつかない謎だった。真面目に賢く働いても、従来の経営理論を熱心に実践しても、必ずしも競争優位にはつながらない。大半の経営者は、心の中では競争優位の追求をあきらめているのではないか--そう思いたくなる。きっと彼らは、自分たちにできること、つまり業務効率の改善やコスト削減や規律ある実行に全力を尽くそうと決めているのだ、と。