『美しき免疫の力 人体の動的ネットワークを解き明かす』
1992年1月2日、メジトフはようやくジェンウェーと対面した。両者とも大きなビジョンを描くことのできる思想家であり、アイデアあふれる情熱家であり、ここに、生涯にわたって続く協力関係と友情が結ばれた。二人がまず取り掛かったミッションは、病原菌の特徴を検出する「パターン認識受容体」がヒト免疫細胞に本当に存在するかどうかの解明だった、一つの例でも示せば勝ちだが、それがとんでもなく難しい。しかも、メジトフには実践経験がほとんどなかった。しかし、イギリスの小説家ロアルド・ダールが自身の最後の児童文学作品の中で書いている通り、
「しっかりと目を光らせ、自分を取り巻く世界全体を見つめれば、きっと素晴らしい発見がある。この世の最大の秘密は、いつだって思いもよらない場所に隠されているものだから」 Dahl R. 『The Minpins』(1991,『ふしぎの森のミンピン』 おぐらあゆみ/訳 )
メジトフの場合もそうだった。彼は、最終的に成功をおさめたが、そのきっかけを与えてくれたのは、思いもよらない存在ーー昆虫だった。
私たち人間と同じく、昆虫も、細菌や菌類などの病原体の脅威にさらされている。しかし、1960年代半ばに科学者のピエール・ジョリーが指摘したとおり、昆虫が日和見感染症(免疫機能が低下しているときに、健康体であれば害のない弱毒性の病原体によって引き起こされる感染症)で苦しむことはない。昆虫にはよほど強力な免疫防御が備わっているに違いない。
『美しき免疫の力 人体の動的ネットワークを』(ダニエル M ディヴィス 著 久保 尚子 訳)