人類は「文化に依存している種」である

人類進化のプロセスや、他の動物とこれほど異なる理由を理解する上で何より重要なのは、人類は文化に依存している種である、と認識することだ。ここでいう「文化」には、習慣、技術、経験則、道具、動機、価値観、信念など、成長過程で他者から学ぶなどして後天的に獲得されるあらゆるものが含まれる。
    ジョセフ・ヘンリック著今西康子訳『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と<文化ー遺伝子革命>』P.22

人類の成功の秘密は、個々人の頭脳の力にあるのではなく、共同体のもつ集団脳(集団的知性)にある。この集団脳は、ヒトの文化性と社会性が合わさって生まれる。つまり、進んで他者から学ぼうとする性質をもっており(文化性)、しかも、適切な規範によって社会的つながりが保たれた大規模な集団で生きることができる(社会性)からこそ、集団脳が生まれるのである。狩猟採集民のカヤックや複合弓から、現代の抗生物質や航空機に至るまで、人類の特徴ともいえる高度なテクノロジーは、一人の天才から生まれたのではない。互いにつながりを保った多数の頭脳が、何世代にもわたって、優れたアイデアや方法、幸運な間違い、偶然のひらめきを伝え合い、新たな組み合わせを試みる中から生まれたものなのだ。
規模が大きく、しかも成員相互の連絡性が高い社会ほど、高度なテクノロジーや、豊富なツールキット、多くのノウハウを生み出せるのはなぜか?小さな共同体が突然孤立すると、高度なテクノロジーや文化的なノウハウが次第に失われいくのはなぜか?いずれも、集団脳の重要性で説明できることを第12章で示す。後ほど詳しく述べるが、人類のイノベーションは、個々人の知性よりもむしろ、社会の在り方に依存している。いうまでもなく、共同体の分断や社会的ネットワークの崩壊をいかにして防ぐかということが、長い歴史を通じてずっと、人類にとっての重要な課題だったのだ。
    ジョセフ・ヘンリック著今西康子訳『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と<文化ー遺伝子革命>』P.25

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